塩は生命維持に不可欠で、さらに人間にとっては食品保存用、食品加工用、そしてもちろん調味料として、実に貴重なものである。ところが日本には岩塩が産出しない。従って海水から得る以外、方法がなかった。 製塩は縄文時代から行われていたといわれる。砂や藻[も]を利用して海水を濃縮する原始的な方法を会得しただろう先人たちは偉い。以来、大雑把にいえば、古代の藻塩焼き、中世の揚浜[あげはま]式塩田、近世に入って戦後まで続いた入浜式塩田で、日本人は貴い塩をつくり続けてきた。 私たちが子供のころは、社会科で瀬戸内地方の産業としての塩田のことを習ったが、現在の教科書には載っていないはずだ。昭和35年ごろから塩田を使わないで、工場で電気を使っての製塩法が開発され、昭和45年からは国内塩のすべてがこの方法で製造されるようになったと物の本にあるからである。 ところが何年か前から、伯方[はかた]とかの地名を冠した天然塩が家庭用としても売られるようになった。工業製品の塩に飽き足りないようになってきたということだろう。身体にやさしい、旨い塩というわけである。 汁物、煮物、焼き物、炒め物、揚げ物、蒸し物など、ほとんどの料理に塩は欠かせない。甘・酸・鹹[かん]・苦・辛の五味のうち鹹(塩味)はすべての味の基礎である。しかも、調味料としての塩はほんの微量、一瞬の手加減で料理の出来が左右される。 以前の食卓塩に比べて天然の塩は確かに高価だが、高過ぎるものではないと愚考する所以である。