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日本人の飲食に水は格別な役割を担ってきた。
茶人たちは最も水にこだわった。豊臣秀吉は宇治川の水を愛し、いまも残る宇治橋「三の間」で水を汲ませたというし、近江・堅田(の茶人、北村祐庵(は毎日、琵琶湖の真ん中の水を下僕に汲ませていたという。
昔から名のある銘酒はやはりすぐれた水によってその名があり、酒つくりに水が大切であることは今も変わりがない。京都の豆腐が古くから歓(ばれたのも京の水ゆえだった。
料理においても然りで、米を炊(くにも、煮物、汁物の出汁(をとるにも、刺身をつくるにも、水をおろそかにはできない。日本の料理は特に、素材の味を損なわないことを第一義と考えるからである。
数十年前まで日本人は、その水を川の水や泉水、井戸水など天然の水に頼って事欠くことがなかった。ところが急速な近代化、工業社会化などの過程で、そんな恩恵を受けることがだんだん叶(わなくなった。
それでもやはり、私たちにとって水は大事なのである。水道の蛇口に浄水器を取り付けたり、ペットボトルの水を利用したりと情けない限りだが、ようやく日本人が水の大事さに気づいた証左だろうと、そんな風景を眺めている。
その意味で、各地の湧水(が健在なのがうれしい。私も機会があれば訪れるようにしているが、そのつど、舌や喉、胃の腑(などとともに心まで洗われるような気分を味わうのである。 |
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| 本名、筒井泰彦(つつい・やすひこ) |
1944年生まれ、佐賀市在住。
平凡社にて月刊「太陽」副編集長、佐賀新聞社で文化部長、論説委員を歴任。元季刊
誌「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著・講談社文庫)、「必冊 池波正太郎」(平凡
社)、「江戸を食べに行く」(共著・河出書房新社)など。食に関するエッセイ多
数。
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