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人類は世界各地で、それぞれの主要農産物を原料に、それぞれの酒を醸してきた。麦からビールを、葡萄からワインを、そして私たちの祖先は米から日本酒を造った。さらに日本は、自然的条件により、世界に類を見ない良水に恵まれ、日本酒を精妙無比、芳醇(極まりない酒に仕上げたのである。
日本酒は醸造酒として世界最高であるとする識者の説を私は信じている。また、今日、私たちが日常に飲んでいる日本酒は史上最高のものだとする言にも躊躇(わず票を投じたい。
東京大学名誉教授で文化勲章受賞の醗酵学者、今は亡き「酒博士」の坂口謹一郎翁はその著『日本の酒』の第一話冒頭で、「世界の歴史をみても、古い文明は必ずうるわしい酒を持つ。すぐれた文化のみが、人間の感覚を洗練し、美化し、豊富にすることができるからである」と述べられている。すぐれた文化をはぐくんできた日本の「うるわしい酒」こそが日本酒、と宣言されたのである。
嗜好品(としてそれほどすぐれた日本酒が、ひとたび料理や加工品に用いられると、さらに美味なるものに調える働きを持っていることはよく知られている。奥深い酒なのである。
それが、人も知る通り、最近、日本酒を嗜(む日本人が減ってきているという。何というもったいない話だろうと思う。日本文化の精華(を多くの日本人が知らないでいる――そのことを残念に思いながら、私は今宵も有志とともに日本酒を酌(み交わすのである。 |
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| 本名、筒井泰彦(つつい・やすひこ) |
1944年生まれ、佐賀市在住。
平凡社にて月刊「太陽」副編集長、佐賀新聞社で文化部長、論説委員を歴任。元季刊
誌「FUKUOKA STYLE」編集長。
著書に「梅安料理ごよみ」(共著・講談社文庫)、「必冊 池波正太郎」(平凡
社)、「江戸を食べに行く」(共著・河出書房新社)など。食に関するエッセイ多
数。
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